1. 原因
生活習慣、加齢、遺伝子APoE4(日本人の9%が保有)など複数の要因が重なって発症します。
生活習慣における運動不足、睡眠不足、糖化(炭水化物 過剰食)、過剰ホモシステイン、ビタミン不足(B群、D)、ミネラル不足(亜鉛、マグネシウムなど)、性ホルモン不足(女性ホルモン、男性ホルモン)、抗酸化物質不足(メラトニン、グルタチオンなど)、ストレス過剰(コルチゾール)、孤独、難聴、毒素への曝露(水銀・カドミウム・ヒ素)など。
2. 検査・診断
これら多様な発症要因の中から、問診、血液検査、聴力検査、画像検査などにより、是正すべき因子を絞り込んで診断します。なお、画像検査だけでの診断は危険です。画像はあくまで参考検査です。
3. 複合的治療
脳を支えるネットワーク機能の不均衡を是正するための複合的な治療を組み合わせた 『カクテル療法』 です。
4. 薬物治療
日本で認可されている4種の認知症薬(アリセプト、レミニール、リバスタッチ、メマリー)はいずれも穏やかな作用しかありません。
2016年フランス高等保健機構HASは、4種の認知症薬は医療上の利益が不十分⇒保険償還不可との勧告を出しました。この勧告を受け、フランス保健省はこの4剤の保険償還停止処置を行いました。
2023年9月、認知症抗体薬レカネマブ(レケンビ)が軽度認知障害の進行抑制薬として承認されました。ただし、検査のハードルは高いです。
◆認知症への取り組み 世界の流れ
SCI(主観的記憶障害)は50代から始まる
認知症の予防は、MCIの早期発見から
65歳~
認知症ドック ⇒認知症早期発見
Q. 認知症について、わかりやすく教えて下さい。
今や、認知症は癌と並び、2大疾患となりました。
癌も、認知症も、静かに忍び寄ってくるサイレントキラーです。
癌は命を奪い、認知症は魂を奪います。どちらも早期発見、早期治療が大切です。
高齢化すると物忘れが進み脳も委縮すると考えられていましたが、調査の結果、単なる加齢による良性老年性物忘れBSFや記憶障害AAMIは脳萎縮も、脳血流の低下も、糖代謝の低下も、ほとんど認めないことが判ってきました。
問題は、認知前症と言われている軽度認知障害MCIは放置すると認知症に進むことです。このため、軽度認知障害MCIを発見する『もの忘れ脳ドック』に注目が集まるようになりました。
Q. 認知症には、どんなタイプがあるのですか。
アルツハイマー型は有名ですが、他にも、色々なタイプの認知症があります。
タイプと頻度は、円グラフにあるとおりです。
Q. 主観的記憶障害SCIと軽度認知障害MCIについて教えて下さい。
主観的記憶障害SCIは物忘れが多いことを本人だけが気にしている状態です。家族はもちろん会社の同僚も気がつきません。
SCIの多くは放置されています。しかしSCIの中には軽度認知障害MCIの健忘型の場合もあり、ドックを受けてみる価値はあります。
厚生労働省は、65歳以上になると4人に1人は軽度認知症MCIがいると警告しています。
軽度認知障害MCIは日常生活は正常ですが、家族から見て記憶力がおかしいと訴えます。
認知症は発症の数年前から始まっています。俗に隠れ認知症と呼ばれている軽度認知障害MCIを早期に発見し、適切な予防対策を取れば、認知症への進行を遅らせたり止めたりすることができます。
Q. 治療すれば、効果の期待できる認知症について教えて下さい。
認知症には、初期、中期、末期の3段階があります。
初期認知症は、物忘れ、時間、日にち、計算、判断など、色々な障害を起こし、日常生活に何らかの支障を来すようになります。家族の支援は必要ですが、まだ物忘れの自覚はあり、記憶はまだらに保たれています。この段階で、生活指導、脳トレなどの強力な治療介入を行えば、まだ回復が期待できます。
問診 基本情報の聞き取り
本人に、以下の簡単な質問をします。
① 日常生活に関する問診
・ 家族構成 : 独居 ・ 2人家族 ・ 複数人家族
・ 社会参加 : なし ・ あり 週 回・月 回
・ 趣 味 : なし ・ あり ( )
・ 定期的ウォーキング : なし ・ あり
・ 料 理 : しない ・ する
② 性格に関する問診
真面目 ・ 几帳面 ・ 潔癖 ・ こだわる ・ 完璧主義
③ 治療中の病気について
糖尿病 ・ 高血圧・高脂血症・脳卒中・自己免疫疾患
その他( )
④ Body Mass Index 体重(kg) ÷ 身長(m)2 =
・ 適正体重は、BMI:20~24です。
・ 許容体重は、BMI:18.5~25です。
・ 肥満は、BMI:25~30です。
・ 病的肥満は、BMI:30以上です。
Q. ミニメンタルステート検査MMSEについて教えて下さい。
MMSEは1975年、米国のフォルスタインらが開発した口頭による見当識・記憶力・計算力・言語理解・図形把握など、1問10秒間で回答する1問1点方式の11問30点満点です。どの位の点数から認知機能低下を疑うのか、医師の経験により多少異なります。健常人は27点以上を取ります。
<疑い評価>
MMSE得点数 | 判 定 |
30~27点 | 正 常 |
26~24点 | 軽度認知障害MCI疑い |
23点以下 | 認知症疑い |
コメント:私の臨床経験から、健常者が20点以下を取ることはまずありません。
20点以下の場合は、認知症の疑いが強いと考えるべきです。
同様に、長谷川式認知症スケールでも健常者が20点以下を取ることは極めて稀です。20点または21点は大きな壁です。
<認知症評価>
MMSE得点数 | 判 定 |
27点以上 | 正常値 |
26~22点 | 軽度認知障害MCI |
21点以下 | 認知障害あり |
田平 武著「認知症診療テキスト」より
Q. 家族の参加した問診があると聞きました。
大友式認知症予測テストを用いた問診を行います。他にも国際評価を得た問診表がありますので、ミニメンタルステート検査MMSEの内容を見て、どの問診表を使うか判断します。
① 大友式認知症予測テスト
物忘れの始まり、あるいは認知症のごく初期の状態をご自身や家族などが、簡単に知ることができます。
家族の評価基準は以下の通りです。
0~8点 | 正常 |
物忘れも老化現象の範囲内。疲労やストレスによる場合もあります。 8点近かったら、気分の違う時に再チェックを。 |
9~13点 | 要注意 | 家族に再チェックしてもらったり、数ヶ月単位で間隔を置いて再チェックを。認知症予防策を生活に取り入れてみたらいかがでしょうか。 |
14~20点 | 要診断 | 認知症の初期症状が出ている可能性があります。家族にも再チェックしてもらい、結果が同じなら、もの忘れ・認知症外来へご相談下さい。 |
注:
他の問診表として、日本ではまだ馴染みは薄いですが、ヨーロッパで一般的に使われているライズバーグの7段階スケールGDS。
モーリスの簡易観察尺度 AD8 – J。
初期認知症徴候観察リストOLDなど。
Q 主にヨーロッパで使用されているライズバーグの7段階スケールGDSについて教えて下さい。
このスケールの価値は、国際的に使われているミニメンタルステート検査と統計的な相関が出ており、使いやすく便利です。
Q 睡眠と認知症との関係について教えて下さい。
睡眠障害は認知症の上位危険因子です。イビキ無呼吸、寝相の悪さ、睡眠中の異常な言動などは将来認知症になる可能性があると考えられています。
睡眠問診 不適切な睡眠
Q 身体機能検査について教えて下さい。
ドック受診者が意外と思われる検査があります。身体能力テストとして、歩行スピード、聴力、視力などがあります。歩かない人、筋肉の落ちた人、難聴、視力低下は認知症発症の危険因子です。視力の矯正、集音器、補聴器の使用などを指導しています。
聴力検査の意味
聞く力(聴力)は脳の力を表します。聴力=脳力
脳の力が落ちると聞く力も落ちます。特に低音域(250Hz前後)の聴力が低下します。
聴力低下、なかでも低音域聴力低下の原因を調べてみると ⇒遅寝、睡眠の質の低下、痛み、不安などのストレス
会話域聴力(周波数1000Hz前後)の中等度難聴~高度難聴は認知症の危険因子です。
Q 血液検査は何を調べているのですか
認知症の危険因子を調べます。自分の弱点を知っておくと有利です。
危険因子としては、HbA1c、インスリン抵抗性HOMA-R、ホモシステイン、白血球、炎症反応CRP、甲状腺機能TSH・T3・T4、ビタミンD、亜鉛など
HbA1c
基準範囲 | 要注意 | 異常 |
5.5以下 | 5.6~6.4 | 6.5以上 |
インスリン抵抗性 HOMA-R
正常 | インスリン抵抗性の疑い | 明らかな抵抗性あり |
0.3~1.6未満 | 1.6~2.5未満 | 2.5以上 |
炎症反応CRP
基準範囲 | 要注意 | 異常 |
0.30以下 | 0.31~0.99 | 1.00以上 |
甲状腺機能 TSH、FT3、FT4
基準範囲 | 要注意 | |
TSH | 0.4~4.2 | 2.0以上 |
FT3 | 2.5~5.0 | 2.5未満 |
FT4 | 0.8~1.7 | 0.8未満 |
総ホモシステイン
基準範囲 | 要注意 | 異常 |
7.0未満 | 7.0~12.0未満 | 12.0以上 |
Q 睡眠中のイビキ無呼吸は認知症の危険因子と聞きました。検査について教えて下さい。
イビキ無呼吸検査は自宅であなたが平素寝ているベッドで行います。検査器具の装着方法については検査技師から説明があります。
検査は1分間における低呼吸・無呼吸の回数AHIという数値で表します。睡眠中の低呼吸・無呼吸による低酸素は認知機能に影響します。
正常 | 軽症 | 中等症 | 重症 |
5未満 | 5~15未満 | 15~30未満 | 30以上 |
低酸素の判定基準
睡眠中のSpo2正常域は95~100%です。
軽度低呼吸:Spo2正常域が100~70% ⇒睡眠指導対象 ⇒詳しくはこちら
中等度低呼吸:Spo2正常域が70%未満~50% ⇒治療対象:OAまたはCPAP
高度低呼吸:Spo2正常域が50%未満 ⇒治療対象:OAまたはCPAP
Q 遺伝子検査があると聞きました。
メディアで騒がれているApoE4遺伝子があります。この遺伝子検査陽性の場合、将来、数倍高率に認知症を発症すると言われています。しかし、仮に陽性であっても認知症を発症しない人が多数おられます。倫理上の問題からも検査は希望者のみとなっています。
Q アルツハイマー病の画像検査でSPECT検査があると聞きました。教えて下さい。
アルツハイマー型認知症初期の段階で、側頭葉と頭頂葉の血流低下がみられます。認知症の程度が進むと、前頭葉の血流も低下してきます。特に若年性アルツハイマー型認知症では、側頭葉内側の萎縮変化は認められなくても側頭・頭頂皮質で血流低下を来していることが多く、SPECT画像は診断に役立ちますが、あくまで参考です。
Q MRI検査は脳のどこの変化を見ているのですか。
人は、目、耳、鼻から入った情報をとりあえず海馬(一次記憶中枢)に記憶します。あらゆる情報は海馬を取り巻く海馬傍回を通ります。この海馬傍回の萎縮の程度をVSRAD法を用いコンピュータで分析し、Zスコア値を出します。
Q Zスコアの値について教えて下さい。
この数値は診断の決め手にはなりません。あくまで目安として参考にします。
特に高齢者の場合は、参考値程度となります。この数値で一喜一憂しないでください。
萎縮度 | Zスコア値 | 判定 |
正常 | 0~1 | 萎縮はほとんど見られない |
Ⅰ度 | 1~2 | 萎縮がやや見られる |
Ⅱ度 | 2~3 | 萎縮がかなり見られる |
Ⅲ度 | 3以上 | 萎縮が強い |
認知症とダットスキャン検査
認知症とMIBG心筋シンチグラフィー検査
鑑別に有用な検査です。
C 健常成人
AD アルツハイマー型認知症
FTD 前頭側頭型認知症
PD パーキンソン病
PDD 認知症を伴うパーキンソン病
DLB レビー小体型認知症
Q パーキンソン病、パーキンソン類縁疾患の認知症に対するダットスキャン検査について教えて下さい。
記憶はどこで作られどこに蓄えられているのか、これに関する研究はいまだ発展途上にあります。記憶は海馬、海馬傍回から前頭葉に至るドパミン回路の活性度に関係するという説があります。このA10ドパミン回路を調べる検査はありませんが、隣の線条体に投射するA9ドパミン回路の活性度を調べる検査があります。これがダットスキャンです。私はA9ドパミン回路の活性度をA10ドパミン回路の活性度とほぼ同等と考えています。ただし、ドパミン活性度を視覚化したダットスキャンは、あくまで参考検査です。
ダットスキャン | MIBG心筋シンチグラフィ | |
アルツハイマー型認知症 AD | 低下 | 陽性 |
レビー小体型認知症 DLB | 低下 | 陰性 |
Q 治る認知症として特発性正常圧水頭症があると聞きました。
特発性といって原因は不明です。水頭症とはいえ脳圧の高くならない正常圧水頭症という病気です。症状は動作緩慢、歩行緩慢、尿漏れ、認知症の3徴候です。MRI画像で診断可能です。時にパーキンソン病と紛らわしい場合があり診断の遅れることがあります。
注意すべきはMRI画像上偶然に特発性正常圧水頭症を発見されることがあります。
⇓
約半数の方は歩行緩慢、尿漏れ、認知症などを発症することなく生涯を終わります。
約半数の方は3徴候が数年~十数年の間に緩徐に進行します。
治療は脳脊髄液を腹腔内に流す髄液シャント術を行います。
監修:脳神経センター大田記念病院
Q 治る認知症として慢性硬膜下血腫があると聞きました。
高齢者が直接の頭部打撲や転倒転落などの間接的な頭部打撲を受け1~2ヶ月経つと動作が鈍り、半身の動きが鈍る、物覚えが悪くなる、活気がなくなるなどの症状を起こします。軽微な頭部打撲でも慢性硬膜下血腫を生じる場合がありますので、本人に頭を打ったという自覚がないためCT検査が遅れることがあります。手術は局所麻酔下に穿頭し血腫を吸引する簡単な手術です。数日入院で退院できます。
Q 初老期うつ、老人性うつと認知症の関係について教えて下さい。
初老期うつ、老人性うつと認知症の関係は広く周知されています。うつの原因はモノアミン仮説が有力です。モノアミンとはドパミン、セロトニン、ノルアドレナリンなどの脳内ホルモンのことです。
このドパミン、セロトニン、ノルアドレナリンの相互のバランスが崩れるとうつ状態を発症します。単なるうつだけでなく認知機能の低下を伴うことがありますので抗うつ剤による治療が必要です。
ウォーキング
睡眠
前項を参照ください。
会話
会話の効果はウォーキング、睡眠と並んで効果的です。友人あるいはパートナーと会話しながらのウォーキングはおすすめです。
薬物
レミニール、アリセプト、リバスチグミンは同種類製剤のため重複処方はできません。実際に処方してみて臨床的に目に見える効果があるかと聞かれればあまりない~ほとんどないと言わざるを得ません。アリセプトの場合5㎎を超えると興奮などの副作用を経験します。
時に少量を組み合わせると有効なことがあります。大きな問題は現在発売されている4種類の薬は有効性が低い上に、処方して1年、よくて2年しか効かないと言われていることです。
厚労省が認可した以外の薬・サプリ
認知症の病因としてグリア細胞の炎症説があります。グリア細胞は元は樹状細胞ですから免疫作用や貪食作用を持つ細胞です。グリア細胞が脳の機能を保つ上に大切な働きをしていることは言うまでもありません。グリア細胞の慢性炎症説は、、そうかもしれないと思わせる説です。慢性炎症の原因は何なのか、ウイルスか、真菌か、自己免疫反応か真相は闇の中です。決め手になる治療薬のない状況での対応策は様々です。
私が行っている治療は抗酸化作用の強いメラトニンです。メラトニンは抗酸化作用の他に第二次性徴発現をコントロールする作用が知られています。したがって、思春期を過ぎると減少の一途をたどり前期高齢者辺りから分泌は大幅に減少します。メラトニンの分泌低下と一致してがんと認知症が急増するのは興味深いことです。私は厚労省から薬監証明を取りメラトニンを輸入し認知症患者に処方しています。もちろん通販で買うことも可能です。
メラトニンの他に強力な抗酸化作用を持つサプリとして水素水マイクロハイドリンがあります。神経膠腫(グリオーマ)に効くと言われ米国で研究の進んでいる駆虫剤メベンダゾールは興味深い薬剤です。微量元素の一つであるバロン(ホウ酸)はゴキブリ退治に使う馴染み深い薬ですがイメージが良くないです。複数の微量元素を含む粘土モンモリオナイトは食用がありますので試してみる価値はあると思います。希望者には厚労省が認可した以外の薬・サプリについても若干紹介しています。