振戦とは、筋肉の収縮と弛緩が繰り返されたときに起こる意識しないで生じるふるえです。
振戦は誰にでも起こり得ます。目の周りのぴくつきや手のふるえを気にする人がおられますが、そのほとんどは、病的振戦ではありません。振戦はストレスや不安、抑うつなどによっても起こります。他にもアルコール依存症の禁断症状や甲状腺機能の亢進、カフェインや薬物の過剰摂取によっても起こります。
・眼瞼ミオキミア
眼瞼ミオキミアとは眼輪筋のけいれんが不随意に起こることにより、上眼瞼、多くは下眼瞼がさざなみ状に動く状態で通常片目に起こります。神経質で気になる方が外来に来られます。ストレス、眼精疲労、睡眠不足を改善すれば自然消褪します。
・眼瞼チック
チックは小児や青年期に体の一部、特に眼瞼が勝手に動いてしまう症状を言います。眼瞼チックは瞬きが多くなることもあります。片目に目立つ場合が多いです。ストレス、テレビゲームのし過ぎ、学校・家庭・学習塾などでの心的ストレスの改善により消褪します。
・眼瞼けいれん
片目または両目に起こります。眼瞼けいれんはメージュ症候群と姉妹のような関係にあります。病態はほぼ同じで口や舌に症状が出た場合をメージュ症候群と言います。眼瞼けいれんは瞬きが増えたり、自由に目が開けにくくなったりする、いわゆる目の開け閉めスイッチが故障した状態です。「まぶしい」「目が乾いた感じがする」「目をつぶっているほうが楽」あるいは「自然と両目あるいは片目が閉じてしまう」といった自覚症状で病院を受診されます。この病気は意図せず筋肉が収縮するジストニアと考えられており、原因不明です。薬による治療は限定的で、逆に抗精神病薬でも発症します。したがって、遮光メガネ、クラッチメガネ、そしてボトックス療法を行います。
・メージュ症候群
両目に起こります。メージュ症候群は眼瞼けいれんと口・下顎・頚の不随意運動を呈する症候群です。神経学的には局所ジストニアに属します。眼輪筋、皺鼻筋、鼻根筋の収縮で特有のしかめ面顔貌を呈し、瞬目増加も認められます。この他に眼脂、羞明、流涙などを伴うこともあります。口すぼめ、口角の後退、舌突出、顔面下部、顎、頚の不随意運動が認められます。これらの運動の多くは眼瞼けいれんと連動しているのが特徴です。就寝時には症状は消失し、一方のみの症状を呈する場合でも不全型とみなす場合もあります。
大脳基底核および脳幹の機能異常が関与していると考えられています。治療はボトックス療法です。
・顔面けいれん
片側のめをつぶるための筋肉、笑う時に収縮する筋肉、口の開閉にかかわる筋肉が勝手に収縮したり、収縮と弛緩を繰り返してピクピクしたりする病気です。40歳以上に多く、男女比はほぼ1:2です。初期のころは目の周囲だけが気になりますが、だんだん片側の顔全体の筋肉の勝手な運動が出てくるようになります。両側に起こることは非常にまれです。
原因のほとんどは脳幹から顔面神経が出てくるところで正常にある静脈や動脈と接触し、その刺激によって顔面神経が興奮しけいれんを起こします。外科的手術により軽快します。
・正常な手指の振戦
手の指の細かい震えを気にする人がおられます。これは病気ではありません。手の指を広げた状態で保つと、筋肉の緊張が、細やかな振るえとして見えます。姿勢時振戦の一種です。膝の上に手を乗せるとピタリと止まるはずです。パーキンソン病の場合は、手を膝の上に置いて、力を抜いても手指が1cm前後震えます。これは病的です。
・安静時振戦(resting tremor)
安静時(筋肉の随意収縮がまったくない状態、手を膝の上に置いたときなど)に見られ、動作によって減弱します。パーキンソンParkinson病が代表的な疾患です。
・姿勢時振戦(postural tremor)
安静にしている時には振戦はなく、ある姿勢を保つ時に出現します。
本態性振戦が代表的な疾患です。
・動作時振戦(action tremor)
随意運動を行う時に生じますが、動作が止むと消失します。
Hoimes振戦が代表的な疾患です。
・企図振戦(intention tremor)
安静時には出現せずに、動作を起こす時に生じる3~6Hzの振戦です。
脊髄小脳変性症、小脳梗塞、小脳出血等の小脳疾患が代表的です。
・本態性振戦
ストレス、不安、疲労、薬剤副作用、アルコール禁断症状、甲状腺機能亢進症などで起きます。
本態性は、原因不明、原因のよくわからない振戦という意味です。 振戦のなかでは、最も頻度が高いです。生活に支障のない限り、放置します。 生活に支障のある場合は、βブロッカーなどの治療を行います。以前は、アルマールという名の薬を使っていました。ところが、糖尿病の薬アマリールと誤って処方される事故が続き、薬の名前がアロチノロール塩酸塩という名に変更されました。 人前で字を書く仕事、精密な測定器具を操作する仕事など、振戦(ふるえ)が仕事に支障をきたす場合があります。
治療は日本ではβブロッカー製剤であるアロチノロール塩酸塩が第一選択です。海外では抗てんかん薬プリミドンが第一選択です。その他に抗てんかん薬クロナゼパム(ランドセン、リボトリール)、ドパミン系を介さない抗振戦薬ゾニサミドも有効です。