てんかん

 

長年のてんかん外来から意識消失を伴う全身痙攣を起こすいわゆるてんかんでの悩み相談とは別に、これはてんかんではないでしょうかと心配する方々に共通するのは、非てんかん性発作と単純部分発作です。非てんかん発作はてんかんと間違えられやすいです。一方、てんかんでありながら単純部分発作は間違った診断や治療を受けている場合があります。この2つについて簡単にまとめてみました。てんかんの悩み相談外来も行っています。

非てんかん性発作

てんかんと同様診断のポイントになるのは患者さん自身の体験談と見られた方の目撃談です。非てんかん発作の全てをここに網羅することは不可能です。頻度の多い発作について説明します。

1)熱性痙攣

 熱性痙攣のなかにはてんかん発作ではなく非てんかん性発作が熱によって誘発されます。その多くは発熱によって自律神経が不安定になり脳の血管機能に変調を来たし脳虚血によってひき起こされる失神です。発作が長引くと四肢の強直や痙攣が起きてんかん発作と間違えられます。てんかんとの鑑別は経過観察と脳波検査です。幸いなことに熱性痙攣はてんかん性、非てんかん性どちらも成長と共にその多くは3歳までに減少しなくなります。4~6歳になっても熱性痙攣を起こす場合は専門医による精査が必要です。

2)遷延性非てんかん性朦朧状態(家族が心配で騒ぐ)

 熱性痙攣が終わった後も意識が戻らず強直姿勢、眼球変異、自動症様運動、全身の筋緊張亢進などの異常運動があたかもてんかん発作(複雑部分発作)のように長引くことがあります。このとき脳波検査をしてもてんかん異常波は見られません。発作からの異常な覚醒反応ではないかと考えられています。家族は心配し騒ぎ、経験の浅い臨床医は家族の心配に巻き込まれることがあります。

3)泣き入りひきつけ(憤怒発作)

 生後半年~2歳頃までの授乳期すなわち乳幼児の欲求不満、怒りなどから赤ちゃんが激しく泣いていた途中で突然呼吸を止め真っ青になる。俗にチアノーゼ型で意識がなくなり全身がぐったりし長引くと手足を強直させることもあります。蒼白型は過剰な迷走神経反射による徐脈、一時的な心停止が原因とされています。その多くは1分以内に回復します。特別な治療は必要ありません。

4)マスターベーション自慰

 幼少女児に湿疹、ギョウ虫症など外陰部掻痒を来たす疾患を基礎に見られる行動です。大腿をこすり合わせたりソファーの肘掛にまたがり顔は発汗し紅潮しうつろな目でボーっとしていることがある、状況を把握していない親がてんかん発作と間違えることがあります。

5)自律神経反射性失神

 思春期から成人失神発作のなかで頻度的に多いのは痛み、驚愕などの感情の激変や排便排尿など瞬時的な感覚刺激によって引き起こされる自律神経反射(迷走神経反射)による反射性失神です。

6)視覚異常発作

 目の前がぼんやりしたりぼやけたり視野が狭くなったりチカチカする光模様が見えたりします。片頭痛の前兆と後頭葉部分てんかんとの鑑別が困難なことが稀にあります。片頭痛発作の前兆と後頭葉資格発作はよく似ているのでこの場合は脳波検査が決め手になります。

7)睡眠時ひきつけ発作

 この発作は経験豊かなてんかん専門医ですら判断を迷わせる発作です。なぜならてんかん発作は眠りかけのボーっとしているときに起こりやすい、またなかには睡眠中にしか起きないてんかん発作もあるからです。しかし非てんかん性睡眠発作も少なからずあります。24時間脳波が推奨されていますがこの検査で異常なくても抗てんかん薬が奏功する場合があります。鑑別診断がつかない場合はベンゾジアゼピン系のリボトリール、ランドセンが処方されます。

8)心因性非てんかん発作

 てんかん外来をしていて意外に頻度も多く難治なのは偽てんかんです。医者なら簡単に見抜けるだろうと思われるかもしれませんが仮病とはいえ迫真の演技を見破ることは難しく簡単ではありません。自分が実際に見たてんかん発作を見事に再現演技するからです。さらに診断を難しくするのは本物のてんかん患者さんが必要に応じて偽てんかんを演出することです。最終的にはビデオと脳波の同時記録を行います。私の経験では偽てんかんを本物のてんかんと認めてあげ家族にも認めさせたとたんに発作が減少したり中には発作のなくなるケースがあります。偽てんかんは人間の深層心理の複雑さを表現しています。

単純部分発作

真性てんかんですが発作中意識は清明ですから非てんかんと間違われることがあります。

1)運動発作 

 体の一部のけいれん 手が勝手に動く、突然机を叩いたりする、足が勝手にピクピク動くなどジャクソンてんかんが有名です。

2)自律神経発作

 突き上げてくるようなむかつき、皮膚の紅潮や発汗、失禁など 

3)感覚発作

 シビレ・ピリピリなどの知覚発作、物が歪んで見えたりいつも同じ景色が見えたりする視覚発作、不可思議な音が聞こえる聴覚発作、突然異臭がする臭覚発作、めまい発作など

4)精神発作

 不安恐怖発作、もの忘れ発作など

てんかんと妊娠出産の相談

抗てんかん薬の催奇性(奇形)のリスクについて

妊娠したら五体満足健全な赤ちゃんが生まれることを願うのは誰しも同じです。現在内服中のお薬はどの程度の催奇性の危険度を持っているのか妊婦なら誰しも知りたい情報です。スウェーデンカロリンスカ大学病院のTorbjorn Tomsonらは抗てんかん薬の先天性奇形の発症頻度を比較検討するため単剤療法で最も一般的に使用される8種類の抗てんかん薬について検討を行い、2018年4月18日号のThe Lancet.Neurologyに報告しています。追跡した症例は1999年6月20日~2016年5月20日までに適正基準を満たした妊婦7355例についてです。

成分名 催奇率 商品名
バルプロ酸 10.3% デパケン、セレニカ、バレリンなど
フェノバルビタール 6.5% フェノバール
フェニトイン 6.4% アレビアチン
カルバマゼピン 5.5% テグレトール
トピラマート 3.9% トピナ
オクスカルバゼピン 3.0% オクノベル
ラモトリギン 2.9% ラミクタール
レベチラセタム 2.8% イーケプラ

 

報告書の内容を詳しく見ると、ラモトリギン325mg/日以下よりもカルバマゼピンの全用量、バルプロ酸の全用量、フェノバルビタール80mg/日超において主要な先天性奇形の有病率が優位に高かった。著者らは本研究より催奇性リスクはラモトリギン、レベチラセタム、オクスカルバゼピンに関連する主要な先天性奇形リスクは抗てんかん薬を内服していない一般妊婦の子についての催奇性と同程度であったとしています。

妊娠中の発作について

Battino D.Tomson T.らはEuropeてんかんと妊娠登録のデータ分析から3806例の妊婦について抗てんかん薬と発作抑制について調査しています。 3806妊婦全症例のうち66.6%は全妊娠期間中を通して発作はなかったとしています。残りは発作を起こしているが特発性全般てんかんの女性のほうが局在関連型てんかん女性よりも発作は少なかった。興味深いことは奇形率リスクが低いとして妊婦への使用頻度が増加しているラモトリギンは妊娠初期に比べて2期3期の発作制御が悪くなり、他の薬剤に比べ妊娠中に発作を起こしやすいことが分かり、今後発作の危険性を減らすための取り組みが必要と報告しています。

出産時の発作について

結論だけ言うと、出産時の発作はてんかんのある女性のうち約2%に起きています。しかしこのことは帝王切開の適用になるわけではないとしています。

胎児の子宮内死亡について

Tomson.T,Battino D.らはEuropeてんかん妊婦登録データ7055妊婦についての調査から、結論から言うと632が子宮内死亡(592自然流産、40死産)であったと2015年Neurology18;85(7)に発表しています。

妊娠期間中のバルプロ酸治療の中断について

同じくTomson T,Battino D.らはEuropeてんかん妊婦登録データに基づいて奇形率の高いバルプロ酸投薬を中断した女性のその後の発作について調べています。妊娠初期にバルプロ酸を中断した群N=93と他の抗てんかん薬に変更した変更群N=38、バルプロ酸継続治療群N=1588の発作を比較したところ発作の率は維持群のほうが他の2群に比べて有意に低かった。中断群、変更群は維持群の約2倍発作を起こしており、当然といえば当然の結果です。妊娠初期でのバルプロ酸の中断または変更は発作制御不能につながりうる危険性を示しており、今後さらなる観察研究の必要性を強調しています。

抗てんかん薬の用量と奇形率について

全ての妊婦、全ての親にとって最も関心の高いテーマです。Tomson T.,Battino D.らは42カ国の医師の協力による観察コホート研究であるEuropeてんかん妊婦登録データを用い抗てんかん薬による奇形の用量依存性リスクについてLancet Neurol2011 10(7)に報告しています。結論から言うとラモトリギン300mg/日未満の場合とカルバマゼピン400mg/日未満の場合に奇形の割合が最も低いことを指摘しています。この当時はレベチラセタムの使用症例は少なくデータに残ってないのは残念です。


以下は一般的な注意事項です。

脳波検査を受けるコツ

前夜断眠による検査は患者さんの負担が大きいので、前夜は短時間睡眠(3~5時間)としていただき、デジタル脳波計を用い、ウトウト~睡眠~覚醒に至るまでの脳波検査を行うことにより異常波の発見率を高めます。 空腹時よりは、満腹時のほうが、ウトウト脳波がとりやすいため、明神館では、原則お昼ご飯をお腹いっぱい食べていただき、午後検査をします。

てんかんの病型診断のコツ

脳波検査は大切ですが脳波検査に勝る情報は発作の目撃情報です。発作時の症状を見た人から詳しい状況を聞き取りします。最も確実なのはスマホでの撮影画像です。本人のプライバシー保護の問題はありますが、本人自身が目撃情報の大切さを理解し親しい友人知人、同僚に発作時の観察やスマホでの動画撮影を依頼しておくことはとても大切です。

ご家族の方、もしくはご友人・知人の方で、右の『発作と療養の記録』をダウンロードし、できるだけ詳細にご記入いただき、持参されれば診察の助けになります。

ダウンロード
発作と療養の記録.pdf
PDFファイル 313.1 KB

発作型を間違えると大変です

てんかんの診断は全般てんかん複雑部分てんかんに分ける二分法を用います。それぞれ治療薬が異なるためです。全般てんかんにはデパケン、複雑部分てんかんにはテグレトール、これが基本です。 全般てんかんに間違ってテグレトールを処方すると発作は止まりません。逆に複雑部分てんかんにデパケンを処方すると発作は止まりません。 最近は、全般てんかん、複雑部分てんかん、両方に効く広スペクトラム薬が増えてきました。しかし新しい薬は自立支援法1割負担の救済を受けても高額な治療負担となります。

次第に増える高額な新薬

・トピラマート(トピナ)は最強の抗てんかん薬と言われています。就寝前に50㎎程度使用することにより、デパケンを減量できる場合があります。肝障害と食欲を落とす副作用が強く、欧米ではダイエット薬としての使用が多いようです。

・ラモトリギン(ラミクタール)は切れ味の良い薬です。皮疹、肝障害など、時に怖い副作用があるため慎重に使っています。抗うつ作用を持っているため、双極性障害を持つてんかん患者さんには有効です。

・レベチラセタム(イーケプラ)とラモトリギン(ラミクタール)は催奇性が少ないため、若い女性に使いやすい薬です。欠点は高額なことです。

お薬の作用機序は、一般の方には難しい話です。右の比較表は、医師、薬剤師には便利と思います。

ダウンロード
抗てんかん薬 作用機序比較表.pdf
PDFファイル 110.1 KB

自立支援医療制度

自立支援医療制度を申請し、受給者証が交付されると自己負担額が、原則医療費の1割(外来のみ)になり、1ヶ月間に負担する上限額も定めれます。ただしこの制度を利用するには、自立支援医療受給者証に記載された指定医療機関において治療を行う必要がありますので、ご注意下さい。※入院においては通常3割負担となります。

自立支援医療制度の対象疾患

てんかん、うつ病、認知症、高次脳機能障害、総合失調症

 

【申請方法】

認定を受けられた後は交付された受給者証を指定医療機関へ提出してください。詳細は、福山市役所障害福祉課(084-928-1062)へお尋ねください。